映画「終わった人」エキストラ顛末記

  

何事にも挑戦する川添さん。とうとう長年の夢でもあった映画出演。しかも黒木瞳や広末涼子の出演する「終わった人」にエキストラ出演。舘ひろしも出演してました(主役でした)。その顛末記をどうぞお楽しみください。(この文のみ宮田記)

 


 

「終わった人」のエキストラ体験       川添能夫

 

 

 この6月下旬に内館牧子原作の映画「終わった人」の全国放映が始まった。サラリーマン定年後の第2の人生に待ち受ける、予想もつきにくい現実を舘ひろし主演でコメデイ風の奮闘記として描いている。人生90年時代といわれる昨今でも、社会的には区切りとしての定年があり、一応終わったねの声にかこまれ、基本的にエキストラ(番外)の位置づけとなる。今時のシニアは、結構元気なので、組織を離れた後の悩みがここに始まり、そしてその行動ぶりは、個々になかなか味わい深く、その動向は社会的な影響力も孕んでいる。9月に能代で本映画が上映されるので、シニアにとっては、いささかの示唆と内省と笑いの機会になるかもしれない。  

 

 さて、人生のエキストラを歩んでいる小生に、突然、この映画のエキストラの要請が、昨年7月に舞い込んだ。数年前に明治大学の修士課程で,シニアにふさわしいテーマ「老年力の展開可能性」の論文指導を受けていた先生からの連絡である。この先生は、初面談の時に天才バカボン漫画のように鼻血ブーだったり、その後もかなり年上の小生を少し扱いかねていた真面目な石川啄木の研究者である。「あなたにふさわしい映画エキストラの役がある。小生もカルチャースクールの教師として出演するので、生徒役の人数を集めている。是非どうか。」そのメールに、喜んで引き受けますと小生は、即座に回答した。

 

 この本は、東京で所属するNPO「プラチナ・ギルドの会」(シニアが動けば、日本が変わるをモットー)で既に話題になり、回し読みされ馴染みなっていたこともあるが、何よりも映画エキストラは、小生の長い間の夢であり、人生で一度はやりたいとの強い渇望があった。映画好きが底流にあるが、若い時代に「鳥の目」「虫の目」の両方の大切さ、特に地べたを這いずり回る虫の視点こそ忘れてはならないものであるとの言葉に感激し、合戦の場の雑兵役のエキストラとしてでも、映像の一隅にさえ移っていれば思い残すことはないとの大望があった。まさに、棚からぼた餅。私を忘れずに先生、有難う!

 

 当日は、お昼過ぎに新宿のカルチャーセンターに集合、既にひと教室が埋まる位の男女のシニアが集まっていた。前方の机に国際石川啄木学会の人たちが10人位、集まっており、

 

先生との縁の義理会員で初対面の小生も恭しく自己紹介。まもなく、別の教室にみんなで移動。どの辺に座ると映像に移るかを考えて(と言って主演の舘さんがどこに座るか見当がつかない)、先生の講壇の近くに座った。先生も映るだろうし、かなり確率が高いだろうとの読みである。先生は黒板の字を書き換えたり、講座の出だしを予行演習したり、力が入ってくるのが分かる。スタッフの出入りが激しくなる。

 

 舘さん登場。小生の左隣の列の、4番目くらいの後方に座る。あっ、これでだめだ!がっくり!すると突然、監督の指示があり、スタッフから小生に舘さんのすぐ後ろに座るように指示あり。えっ!なんで!この服とのマッチングの良さか。うれじい!館さんは、体格・風貌もさすが素晴らしく、シナリオに従い、勢いよく質問の予行をする。本番!! カメラのライトが一斉に主演を照射。ここぞとばかり、小生も(自分が映りやすいように)右側に顔を乗り出す。しかとライトが、私の顔をとらえたようだ。映ったなとの感激が、心にしみる。

 

 無事終了。舘さんの父親と小生の義父が、同期生であり、そのことを舘さんにこの異常接近のなかで話したい誘惑にかられたが、エキストラの注意事項として、サインをねだったり、俳優に接近することが禁じられている。残念!次の場面は、カルチャーセンターの受付と広いフロアー。フロアーの隅に先生や仲間が座って待機しており、先生が、川添さん映ったみたいだねと言ってくれる。

 

 次のシーンは、舘さんと受付の広末涼子との再会のシーンである。二人とも心のこもった比較的長いセリフである。良く演じていると見ていると、中田監督から舘さんにダメが出る。

 

広いフロアーの方では、我々数人のエキストラが、申し込みをしたり、立ちテーブルで係員の女性から講座の選び方のアドバイスを受けている遠景ショットである。幸い、この相談人にも小生が選ばれた。はじめは、カメラを意識してもっともらしく話しているが、カメラが視界から外れると雑になってくる。そのまま放っておかれるとボランティア同士、「いつ帰れるかな。長いね。」との話になる。

 

 一方、館さんへのダメ出しは続く。撮影所では監督が大将軍。自分の意向に合うまで、満座の関係者の前で俳優は78回も頑張り続ける。小生は、これを見ていて、いくらギャラを積まれても俳優にはなるまいと固く決意。時間は、どんどん過ぎていく。夕方近くに終わるとの予測は外れ、小生は帰る決心をする。小生の再撮影があるかもしれないが、約束があるので涙を呑んで断念。スタッフの一人に理由を告げると上席者に聞きOK。ちょっと待ってと渡されたのが「終わった人」を✖で否定した黄色と紺の派手なTシャツである。謝礼はこれだけであるが、これを着ると「終わった人」でない自覚が急に募り元気になる

 

 さて1年後の結末は。小生は、フロアのシーンに遠めに2回、授業中の舘さんの顔の周りに3人の横顔が寄り添うが、この一つの横顔に選ばれ、目が美しく取れている。東京の友人は、フロアのシーンは。7秒と測ってくれたし、姪はすべてを当ててくれた。もう一人の友人はらしきものを見たとのコメントであり、当事者として狙いを定めてみた小生との違いは如何ともしがたいのであるが、劇場に足を運んでくれた友情には心から感謝。先生は、張り切った割には、授業中の声しか出ずで、これも運命だと知らせてきた。小生は、満願成就。

 

 こんな珍事の中、小生は同好の仲間と組み、図書館や映画団体の後援を得て9月27日(木)~29日(土)、第2回能代映画祭りを行う。28日は、文化会館中ホールでの3本立て500円、35MMフィルムの上映会である。「隠し砦の三悪人」、「嵐を呼ぶ男」、「悪名」。名監督、名優の醸し出す、血沸き肉躍る名画を堪能できる文化庁・国立映画アーカイブとの共催である。昭和の名画会を、他市町村に負けずに市民で育てていきたい。27日は、県内でも先駆けて「バリアフリー映画:くちびるに歌を」の上映。視聴覚に障がいある人も、バリアある人に共感を覚えようとする人も一緒に図書館で楽しみ、初体験を。また、29日も図書館企画にて過去に複数回、映画やテレビ作品となった著名な「アルジャーノンに花束を」を上映。ともに無料。 往年の名画は、娯楽であり、アートであり、時代の風俗を語る貴重な財産。皆様のご来場をお待ちしています。(能代おもしろ映画祭り実行委員会 代表)